カキクドウラク

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【鑑賞レポート】「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」スタッフトークがやっぱり最高だった話(前編)

12月3日(木)に行われた「『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』スタッフトーク付上映会」に行ってきました。

会場は、新宿ピカデリーのシアター1(580席)で、もちろん満員でした。私は30代なのですが、ファンのボリュームゾーンは20代かなあと思っていたところ、実際には半分以上は私よりも年上と思われる方で、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という作品の普遍性を感じました。

それから、19時15分からという比較的遅めの開始時間だったので、仕事帰りと思われるスーツ姿の方も多かったです(かくいう私もですが)。「労働の疲れをヴァイオレットで癒して、明日からも強く生きような!」と、ビールサーバーを担いで一人一人に注いで回りたい気持ちでした。

ヴァイオレットの制作陣によるトークを聞くのは、10月31日(土)の舞台挨拶ぶりの2回目なのですが、今回も充実の内容で、特に「世界観設定」の話は圧巻でした。今回も可能な限りメモを取り、私の感想を交えつつ、トークショーを見ていない方でもなるべく雰囲気が分かるように整えましたので、数々の驚きと感動を、同じファンの方々と共有できるとうれしいです。

※かなりのボリュームになったので、前編と後編に分けています。

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トークショーの司会(斎藤滋プロデューサー)の掛け声で、登壇者の石立太一監督、音楽のEvan Callさん、世界観設定の鈴木貴昭さん、八田真一郎プロデューサー)が入場。

当初は全員マスクを着けていたのですが、斎藤プロデューサーによると石立監督のマスクを見せることが目的だったそうです。私はかなり後方席にいたので見えなかったのですが、舞台挨拶のときに石立監督が着ていたTシャツが、サムズアップのプリントがされたものだったので、今回のマスクもサムズアップ柄だったのかもしれません。11月に京都MOVIXで開催されたスタッフトークと同様にオフィシャルレポートが出たら、答え合わせをしたいですね。

斎藤プロデューサーによるトークショーの概要説明によると、今回の登壇者は「ヴィオレット・エヴァーガーデン」という作品の最初期から携わっている方々なので、企画が打ち立てられたときの話や、アニメーション制作に入る前の準備の話をしてくださるとのこと。そういうの、大好きです!

トークショーの1つ目のトピックは、「第5回京都アニメーション大賞」に応募された「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の原作の原稿を最初に読んだときの感想というものでした。まずは、脚本の吉田玲子さんから寄せられたコメントが紹介され、それに続いて登壇者の方々が当時の思い出を振り返りながら、話が進んでいきました。

<吉田さんのコメント>
自分は不幸なのに人を幸せにする手紙を書く少女、その姿が強く印象に残りました。

続いて、石立監督と八田プロデューサーが、当時の思い出を振り返りました。

石立:僕は、(当時京都アニメーション大賞の)審査員の立場で関わっていて、いただいた原稿をそのままの状態で、最後まで一気に読むことができまして、すごい世界観のお話を書かれる方だなと思いました。ひとめぼれじゃないですけど、その世界にすぐに引き込まれて、これを何かしらの形で世に出したいなと、すぐに思いました。

八田:審査員の人数はけっこう多かったのですが、満場一致で「続きが読みたい」となりました。文章力も含めて、圧倒的に「読ませる力」があるというのでしょうか、これはもう間違いなく大賞だろうということで、評価としてはすぐに決まったという感じでした。審査員には、どれくらい面白かったかを〇△×で書いてもらうのですが、皆さん、〇、〇、〇みたいな。だから議論する余地がなかった。

石立:僕は、原作を読ませていただいてすごく惹かれたので、審査の段階でアピールしておこうと思って、〇△×の3段階のところを、自分だけ二重丸を付けて「気に入っているんだぞ」というのをアピールしました。それも手伝って、今こうしてここに立っているのかなと思います。もちろん、本当にアニメーション化するかってこともまだはっきりしていない段階でしたので、誰が監督候補なんだってことも全然なかったのですが、下心で二重丸を付けました(笑)

斎藤:これが(京都アニメーション大賞の)初の大賞なんですよね。

八田:ヴァイオレットが初の大賞受賞作です。

斎藤:つまり「すごいことが起こったぞ」という予感があったわけですか?

八田:審査のときから「アニメにしたらどうなるんだろう?」みたいなことを演出さんとかと話していましたし、先ほど石立監督もおっしゃったように「俺にやらせろ」という空気感の中で審査していたのを覚えています。

斎藤:鈴木さんは、まだこのときは関わっていなかったんでしたっけ?

鈴木:そうですね。

斎藤:このあとなんですね。後日、初めての大賞となったヴァイオレットの原稿を読まれるわけですが、どんな印象を持たれましたか?

鈴木:最初から完成度が高くて、ガラス細工のように繊細で美しい文章でした。ヴァイオレット(というキャラクターも)魅力的だったので、「これはどうするんだろう?」と思いましたね。私が呼ばれた以上、アニメ化することが前提なのでしょうけれど、「さて、何をしなければならないのだろう?」と。

斎藤:かくいう僕も、八田さんから送っていただいた原稿を読ませていただいて、めちゃくちゃ好きになっちゃったんですよね。ヴァイオレットのことが大好きになりまして、以降、製作委員会の中では「ファン代表」みたいな扱いをされている(笑)選択肢で迷ったときに「(ファンの目線で)どう思う?」って聞かれて、「こっちがいいんじゃないですか」みたいな話をしているんですよね。

やはり「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、最初から別格だったようです。私は、アニメを見てから原作を読んだのですが、だいたい内容を知っていたにもかかわらず「どのような人生を歩んだら、こんな設定を思いついて小説として表現できるのだろう?」と震えたので、応募作品の一つとして、何の前情報もない状態で読んだ審査員の方々の驚きは、相当なものだったのではないかと思います。

2つ目のトピックは、アニメの企画の立ち上げに関する話で、「何としてもヴァイオレットのアニメを作りたい」という八田プロデューサーの熱い思いがうかがえました。

八田:「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、大賞を受賞した作品なので、是が非でもアニメ化をしようとなりました。当時、監督候補と一緒に話をしながら、まず企画書を作ったのですが、書くことが多くて。企画書というのは、「製作委員会」を発足させるために作るもので、「このようなアニメを作りたい」ということを説明するものなのですが、「作りたい!」という思いが強すぎて、何枚も書いた結果、3、4バージョンくらい作った気がします(笑)思いが強すぎて企画書になっていないというか、感想文みたいになっちゃったので、「これが企画書ではまずいだろう」ということで、何度か更新をしました。こうしてでき上がった企画書や原作を、斎藤さんをはじめ、製作委員会を構成する各社の方が読んで、「ぜひ、これはアニメ化しましょう」となり、プロジェクトが立ち上がりました。

斎藤:立ち上げ当時から「世界を意識して」という言葉が出ていたと思うのですが、八田さんは、企画書を書いたときに「世界に向けて作ろう」という思いはあったのですか?

八田:そうですね。出てくるキャラクターや世界観も、国内のファンのみならず海外にも届く作品になるんじゃないかなあという漠然としたイメージはあったんですけど、実際に形になっていくのは、作品を作りながらですね。

斎藤: CMのラストに、何か国語でしたっけ?8とかでしたっけ?「アニメ化企画進行中」という一言を、いろんな国の言語で表現しました。CMに『Violet Snow』が使われていて、歌に合わせて視聴者が自由に翻訳できる設定で(YouTubeの公式チャンネルにCMを)投稿したら、気が付けば何十言語にも翻訳されているんですよね。それで制作側も、世界のファンの方々の目を意識していこうという気持ちが固まりましたよね。

このCMのことですね。映像の最後に8つの言語(上から順に、日本語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、フランス語、中国語×2)で、「アニメ化 企画進行中」とあります。


3つ目のトピックは、原作をどのようにアニメで表現するかという話で、アニメを見たうえで原作を初めて読んだときに「あれっ?」と思った部分の答えが、ここで分かりました。

どのような話をして原作を掘り下げたのかということに関して、まず、脚本の吉田さんのコメントが紹介され、それを受けて石立監督が、吉田さんとの当時のやり取りを振り返りました。

<吉田さんのコメント>
原作は、すでにヴァイオレットが自動手記人形として働いているところから始まりますが、アニメーションでは、なぜその仕事に就いたのか、その前段から描こうということになりました。自動手記人形という仕事を説得力のあるものにするために、考証の鈴木さんと一緒にまずヴァイオレットが生きる世界を組み立てていきました。

石立:先ほども言ったとおり、原作を面白く読ませていただきましたし、ヴァイオレットもちゃんと魅力的なキャラクターに設定されていたので、このままでいいんじゃないかなって僕は思っていたんですけど、京都アニメーションが出版している原作の小説は、部数もそんなに多くないですし、お客様に手に取っていただくのもなかなか容易ではないということで、なるべく丁寧に、アニメーション化されたときに初めて見てくださる方に分かりやすいように、というのが吉田さんからのご提案だった気がしますね。ヴァイオレットが何を思って、どうしてそうなったのか、成長の過程をより分かりやすく再構成するというご提案に、なるほどって思いました。とはいっても、これは今だから言うんですけど、僕自身は原作のファンになっちゃったので、「この人は何を言っているんだろう?原作のままでも面白いのに」って思っていたんですけど、今こうして劇場版まで作って、アニメーションとして描いてきたヴァイオレットという作品を振り返ってみると、こうやって丁寧に少しずつ時間を追って描いてきたことの意味みたいなものが、ちゃんとここにきてよかったなと思えたので、吉田さんはすごいなと思いました。

斎藤:僕も、当時は原作が好きすぎて、変えてほしくない派でした。

石立:そうですね。だから共闘していましたね。

斎藤:原作どおりだったら無限に話が作れるじゃないですか。僕はヴァイオレットと永遠に一緒にいたいから(笑)

石立:「10年続けましょう!」みたいなこと言っていましたよね。

斎藤:毎回(異なる依頼主が登場する)手紙の話を、いくらでもかけるんじゃないかと。

石立:それは無理なんじゃないかな。毎週作れるような話ではない(笑)

原作は、アニメの第7話(戯曲家・オスカーの話)から始まり、ヴァイオレットがホッジンズ社長と再会しC.H郵便社で働くようになる話は、2冊目(下巻)になるまで出てこないんですよね。トークショーでこの話を聞くまでは、「何で違うのかな?」という単純な疑問でしかなかったのですが、1冊に複数のエピソードが収録されている小説と、1エピソードずつ毎週放送していくアニメでは、視聴者をヴァイオレット世界にグッと引き込むためには、たしかにアプローチを変えた方が良さそうです。そういう意味で、「なぜヴァイオレットが自動手記人形になったのかを最初に説明しよう」という吉田さんのご提案は、「さすが!」と思いました。

4つ目のトピックは、ヴァイオレットの世界観設定をどのように作っていったのかというもので、ここからしばらくは鈴木さんのお仕事にひたすら圧倒される時間となりました。

斎藤:鈴木さんのお名前が吉田さんのコメントにも出てきましたけども、鈴木さんは、吉田さんから声を掛けられて制作に関わるようになったんですよね?

鈴木:そうですね。吉田さんから「今度京都アニメーションさんと仕事をするので手伝っていただけますか?」って。「何で俺が京都アニメーションさんに呼ばれるの!?」って思いましたね。(原作の)文庫の下巻がまだ2稿目に行っていないくらいのときに呼ばれて、まず文庫からお手伝いいただけないかというお話でした。

斎藤:ここで鈴木さんがいらっしゃったことによって、ヴァイオレットの世界がどんどん作られていくんですよね。創造主みたいな感じですよね?

鈴木:いやいや!(原作を)広げただけです(笑)

石立:そうですね、言い過ぎです。

鈴木:原作の先生が元は作っていますので。

斎藤:過激すぎましたね。

石立:やっぱり、原作者が創造主かなと思います。

斎藤:そうですね、すみません。でも、言い過ぎてしまうくらい(鈴木さんの仕事が)すごいことがこれから分かります。まず、「世界観設定」とは、どのようなお仕事なのかということを、掻い摘んで教えていただいてもいいでしょうか?

鈴木:世界観設定というのは、要するに、そこに生きている人々がどんな生活をして、何を食べて、どういう家に住んでいて、どういう文化を持っているか、文化ができる背景に何かとか(を決めること)。現実にあるものだったら現実をそのまま置けばいいんですけど、ヴァイオレットは架空世界の物語なので、架空世界を1個丸々作るっていうことをやるのが世界観設定ですね。

斎藤:一言でいうとそういうことなんですけど、では、実際にどれくらいのことをやったのか。スクリーンに映しながら鈴木さんに解説していただきます。

<スクリーン>
テルシス大陸の植生図(ケッペンの気候区分)

鈴木:これは植生図というものです。テルシス大陸自体は、原作サイドでボヤっとした設定がありまして、この辺にライデンがあって、この辺に(大陸戦争の)敵側があって、この町がありますよ、といったことが書いてありました。とはいえ、それしかないのだとしたら、この世界をどうしなければならないのかというと、さらに細かく作っていく。鉄道網はどうなっているのか、どんな国があるのか、地形的にこうなっているのでこの辺はどういう植生になっていて、何を食べてどんな服を着ているのか、とか。あと、建物は、こういう作品をアニメにする場合、だいたいがドイツやイギリスといった分かりやすいヨーロッパ風になるんですけど、監督と演出さんからのオーダーで、原作には、ヴァイオレットが豆腐を食べているシーンがあるように、アジアっぽさもあるので、その辺の要素も入れていきたいというのがあって。あと、ライデンは一番南側にあるんですね。このタイプの大陸で南にあるということは、ドイツやイギリス風の建物にすると、中の人間が暑くて生活できないだろうと。で、そうなったときにどうするかということで、(採用したのが)コロニアル様式。ヨーロッパの国がアジアの方に作った建物のような、窓の広い、通気性の良いものにして、窓の外にベランダがあって、そのベランダに緑をたくさん置けるような、そういう建物にしようと。そういう話をして植生図を作ったという感じですね。一応、平均気温がどのくらいとか、何月が雨季だとか、そういうのも一応作って。テルシス大陸の外側の世界も、実はあります。他の大陸も用意してあって、それから細かく国家が分かれていて、都市の名前がついています。

斎藤:今回出てくるエカルテ島は、(この植生図には)描かれていない。別のところにあるんですね。

鈴木:そうですね。このときには書いていないです。というか、そういう小さい島は書かれていないので。

斎藤:(スクリーンの画像の)下の茶色のあたり(温帯夏雨気候エリア)にライデンシャフトリヒがあるのですね。右上がアンの家で。

鈴木:そうですね。上の方にガルダリク、左の方に(アニメ)5話のドロッセルとかがあるんですね。で、真ん中がインテンスですね。

斎藤:本当にこれ、一人で考えたんですよね!?

鈴木:そうですね。

斎藤:すごくないですか!?すごいと思うんですけど!

鈴木:(植生図は)皆さん、高校の社会で習いますよね?

斎藤:いや、すごいですって!これを作ってくれって言われても作れませんよね?

石立:作れません。

斎藤:これ出てきたときのやり取りを覚えていますか?「こうしてくれ」というのは、何かありましたか?

石立:先ほど、アジアっぽさっていう話があったと思うんですよ。鈴木さんと僕だったか、吉田さんと僕とだったか、はっきり覚えていないんですけど……ヴァイオレットがそもそも自動手記人形という職業に就いていて、すごく着飾ったというか、お人形さんみたいな姿をしていますけど、ある種、俗世から浮いているようないで立ちで、イギリスやドイツといったヨーロッパ圏の街並みに置くと、意外と馴染んでしまう。彼女の歪さというか、異質な存在というか、少し浮世離れしてしまっているってところを、絵的なところでも表現できないかってところで、少しヨーロッパではなくアジアというか、もう少し東寄りの印象を舞台の中に作ることで、ヴァイオレットを際立たせたい。そういうお話をした記憶があります。

まさかヴァイオレットで「ケッペンの気候区分」と再会するとは思いませんでした。まさに「知識があると好きなものへの理解を深められる」という経験で、こういうことがあるからつまらない勉強にもちゃんと意味があるよってことを、10代の自分に言いたいですね。

鈴木さんの世界づくりは、まだまだ続きます。スクリーンに別の画像が登場しました。

<スクリーン>
ライデンシャフトリヒの地形図

鈴木:ライデンシャフトリヒの町を、とりあえず全部作ってほしいっていう話があって。「これは自分の夢見る城塞都市を造るいいチャンスだな」と思ったんですが、それをやると1年かかるので(笑)泣く泣く諦めました。監督からのオーダーが、山があって、山から海が見えて、南側に開けている町であってほしい、あと、坂があって、南っぽい感じで、ということで。地中海に面したようなところを考えて、舞台のイメージにしたのが(イタリアの)ジェノヴァですね。ジェノヴァを(地形の)イメージとして、そこにさっき言ったようなアジア圏のコロニアル様式の建物を置いていくという感じで、町を作っていきました。通りにもそれぞれ名前を付けて、それがどんどん増えていって、最終的にはほぼすべての通りに名前が付いています。坂の上の方にC.H郵便社の建物があるのですが、その辺りは、昔は高級住宅地だったんだけど、(今は交通の面で)不便になって、安く買えたっていう設定になっていますね。

斎藤:はい。C.H郵便社は、右斜め上の山のところですね。ここからいろいろ見渡せるのですね。

鈴木:そうですね。C.H郵便車は、坂のある所に作ってほしいというのが、監督からのオーダーにあったので。

石立:最終的にほとんどの通りに名前を付けたっていうのが、それぞれの通りの名前に意味が込められていたかと思うんです。冒頭にお話しいただいたとおり、どういう文化や歴史があってっていう、とってつけたものではなく、町の成り立ちとかが通りの名前から連想できる物語とか、その通りで何が起きるとドラマティックになるかとか、想像力を掻き立てられるので、本当にありがたいなあって思って。(作中で)通りの名前はほとんど使っていませんが、想像力は掻き立てられたので、とてもありがたかったです。

八田:郵便を配達する宛先では、けっこうその辺を使いましたよね。

石立:あ、そうですね。後ほどお話しに出てくると思いますが、言語を、テルシス大陸なのでテルシス語を、全部鈴木さんに作っていただいたんですけど、劇中に出てくるテルシス語で書かれているものは、翻訳すればすべてちゃんと読めるようになっているので、通りの名前とか、意外とちゃんと書いてあったりします。

斎藤:劇中に出てくる手紙とか、新聞の切り抜きとか、全部読めるんですよね?

石立:全部読めます。

斎藤:ギルベルトが書いたやつとか、適当じゃないってところがすごいですよね。

石立:ちゃんと内容があるっていう。(作り込むのは)割と大変でしたね。

私は人生の半分以上をアニメオタクとして生きていますが、アニメの何が面白いって、一つ好きな作品に出会うと二度おいしいことだと思います。まず、完成した(放送された)映像を見て、グワッとくるような直感的な楽しさを感じて、それから、設定資料集や制作陣のインタビューを読み、どのように作られたのかを知ると、じわじわとこみ上げるような理性的な楽しさを感じる。今回、鈴木さんの話を聞いたことで、自分が好きな「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という作品が、これでもかってくらい丁寧に作られていることを改めて知り、ますますこの作品が好きになりました。

鈴木さんによる世界づくりの一部は、公式ファンブック「ヴァイオレット・エヴァーガーデン クロニクル」にも掲載されています。(京アニショップ!にまだ在庫があるようです)

世界観設定のお話に関連して、このあと石立監督から衝撃的なエピソードが投下されました。

石立:すみません、先日京都のMOVIXさんでスタッフトークをやらせていただいた際に、3Dのスタッフがわざわざ来てくれたのに、ちょっと言い忘れちゃって、この場で言うのも難なんですけど、皆さんに知ってもらいたいなあと思って……この町(ライデン)の3Dのモデリングを、京都アニメーションの3D班の人が全部作ってくれました。必要だからって僕が頼み込んで、全部3Dで組んだものがあったんですが、1回しか使わなかった。本当に申し訳ないことをしたなと。

斎藤:第1話の冒頭(ヴァイオレットが少佐宛に書きかけた手紙が飛んでいくシーン)で使われているものですよね。

石立:そうです。3Dのソフト上で見ると、この通りの広さはこれくらいあって、幅はこれくらいで、建物の高さはこれくらいで、(町の)奥の方に山というか傾斜があって高台になっているので、この位置から見るとその高台はどれくらいの高さに見えるんだろうみたいなことは、それを見ると分かりやすくて、参考にはさせていただいたんですけど、劇場版を作る頃になるとその存在すら忘れていた。すみませんでした。本当にみんながんばってくれたので……

たしかに、ライデンの町の地形や建造物をすべて設計することで、この位置からの見え方という点で、背景の作画に矛盾が起きなくなりますが、それにしても「ここまでやるの!?」と思ってしまいました。一切の妥協がない、究極の仕事という感じです。もし、今後「ヴァイオレット・エヴァーガーデン展」が開催されるなら、ぜひ、その3Dのモデリングを紹介する動画が見られるといいなあと思います。製作委員会の皆様、何卒よろしくお願いします。
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鑑賞レポートは、ここまでを前編として、いったん区切ります。後編では、2つ目のトピックに登場したCMに関する詳細な話や、Evan Callさんによる音楽の話を紹介します。